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信託制度を用いた公共財産の利活用に関する一考察

公共財産という皆が共有できる資産の利活用が、
将来の日本経済にどう寄与することができるのかを考察してみました。

1.新たな手法を探求する背景

現在、平成20年度において国土交通省が推計した、我が国における不動産の総規模は約2,300兆円で、その内の約20%相当の約490兆円が公的不動産(地方公共団体が保有する不動産規模は約360兆円)に上っています。( 平成20年末における国民経済計算確報に基づく固定資産及び土地の総額より)
このように今や行政機関は、道路公社や開発公社などの公的セクターを含めて多大な不動産を保有し、管理を行う巨大な不動産管理企業と言えます。
ここで忘れてはいけないのが、その財産は税金で構築され、管理されているということです。

昨今、財政再建の旗印を掲げる中、積極的にその財産が処分されています。 確かに処分することによって一時的に財政を潤すことになるでしょう。しかし、売ったら終わりです。これを続けることは、まさに行政自体の骨身を削ることでしかありません。 薬物中毒に近い財政再建手法です。 現実的に捉えると、購入価格(原価)に売却時までの管理費用を足して、キャピタルゲインを得ることができるケースはほとんど無いに等しいのではないでしょうか。

中にはどうしても処分せざるを得ない資産もあろうかと思いますが、今ある財産、これは有形無形を問わず、可能な限り活用する手立てを考えなければなりません。 その一つの手立てとして「信託」の手法について展開してみたいと思います。

近年、国有財産法や地方自治法が改正され、公共財産を民間事業者が活用する道筋が可能となってきました。背景には逼迫した財政に対して市場理論の健全化指標を取り入れた、地方財政健全化法が施行されたことからも向かうべき方向性は明らかです。
しかしながら、具体的に即効薬となる手法は示されておりません。
そこで、ほぼ同時期に改正された信託業法を用いて、民間の創意工夫やアイデアを取り入れた、まさに民間事業者の活力をまちづくりに適用した二つの事案について整理してみました。
(信託業法は、平成16年に大正11年の制定以来、82年ぶりに全面改正され、改正信託業法として施行されました。 これにより、受託可能財産の制限は撤廃され、特許権や著作権などの知的財産権についても受託することが可能となりました。 また、これまで金融機関に限定されていた信託業の担い手が拡大され、金融機関以外の方も信託業に参入することが可能となりました。 更に、信託契約代理店制度や信託受益権販売業者制度が設けられ、信託サービスの利用者の窓口が広がることになりました。 その後、新信託法の施行に伴い、新しい信託類型として自己信託が創設されると、改正信託業法は平成19年に再度改正され、自己信託の受益権を多数の者が取得することができる場合は登録制とするほか、委託者や受託者の保護に支障を生ずることのない範囲内で受託者の義務等が見直されています。)

2.考えられるスキーム

一つは、『住民参加型の開発型不動産信託』です。今や、平成の大合併により地方公共団体は圧縮され、庁舎をはじめ給食センターや図書館、児童館、保健所等など、同種同等の公共財産の整理整頓は進められ、行政区画の見直しをも含めて、適正に再整備することが必要となっています。 その際に、これまでの手法とはある種異なった方策として、地域住民による地域住民のための、サービス提供スキームを考案してみました。 いわゆる地産地消型のまちづくりです。

①公共団体は、土地を受託者に信託譲渡します。受託者は事業計画に沿って土地を担保に金融機関からの借り入れを行います。
②①の借入金を利用し、建設会社と請負契約を締結し、公共公益施設を建設します。
③①の貸付を行った金融機関等が当該貸付債権を信託したうえで、その受益権の一部を地域住民等に売却します。
④建物が完成した後、施設を地元運営事業者に賃貸し、公共公益施設(学校・介護施設等)に対して新たな市民サービスを提供します。地元運営事業者は受託者に賃料を支払います。
⑤受託者は、建物賃料等から借入金の元利弁済し、費用等を支払います。
⑥不動産信託及び貸付債権信託の受益者に対して信託配当を交付します。信託終了時には、受託者は土地及び建物等を地方公共団体あるいは民間企業に売却することを想定しています。
もう一つは、 公共団体による「土地信託」です。
単純に、公共団体が保有する土地をある 定期間信託に供し、信託期間終了後に現状有姿のまま受益者である公共団体に戻すというものです。 公共団体は緊急時に市民サービスを提供するにあたって、多額なイニシャルコストを負担することなく、行政目的を達成することができます。

3.享受できるメリット

上記のケースを鳥諏すると、 次のようなメリットが見えてきます。

①公共団体は、土地を受託者に信託譲渡します。受託者は事業計画に沿って土地を担保に金融機関から借り入れを行います。
②受託者は、建設会社と請負契約を締結し、建物等の発注をします。建築代金は、借入金から支払います。建物が完成した後、受託者は、建物をテナントに賃貸し、賃料を収受します。受託者は、建物の管理を管理会社に委託します。
③受託者は、建物賃料等から、借入金の元利弁済、費用等を支払った後、公共団体(受益者)に対して信託配当を交付します。信託終了時には、受託者は土地及び建物等を現状有姿のまま公共団体(受益者)に引き渡し(返還)します。

先ず、公共団体においては、新たな収入を創出させることができます。 固定資産税や都市計画税をはじめ、民間事業者の新たな事業展開によっては、市県民税が増収となります。また、不動産賃貸を行う場合には賃料収入が発生します。更には、支出の抑制を図ることができます。以下、考えられる点を列挙いたします。
・公共財産の運営、管理を民間に委ねることで人件費の削減が可能
・施設建設資金、設備導入資金等の単独年度の巨額な支出削減が可能
・建物修繕等にかかるランニングコストの削減が可能
・前項手続を行う際の事務負担、都度の議会承認手続き等の削減が可能
・支出に見合う資金調達(公債発行を含む)の際の発行コスト、金利負担の削減が可能実質的には、新たな収入を創出させるよりは、支出の抑制を図ることのメリットの方が大きいものと推察します。 次に、民間事業者におけるメリットです。民間事業者としては、公共団体が有する資産を活用することになりますので、自ら投資もしくは調達しなければならない資金を抑えて事業展開が可能となります。
また、既存の公共サー ビスを民間事業者が担うことで、新たな事業形態や、雇用の創出の可能性が生まれます。
最後に、まちの主役である地域住民におけるメリットです。
受益者となり得る地域住民は、自ら公共財産の利活用の在り方を提案するなどして、地域の活性化に直接的に関与することができます。また、地域に根付いた運営事業者は、施設管理の事業主体として積極的に関与し、個々の個性的な地域のニーズを徹底的に取り込んだ地域固有の行政サービスを展開する可能性を持ち合わせています。

4.三位一体による利益の循環

既に我が国はこの50年間において、社会資本は 定の整備が図られてきました。今後、既成の財産についてはどう利活用していくのか、また新たに生み出す財産については、いかにニ ーズにあったものとして利活用されるのか、課題は尽きません。 しかしながら、公共団体・地域住民が“三位一体となってまちづくりにあたることができる、そのようなシステムを構築することができるのであれば、「利益の循環」が可能ではないかと考えます。今、まさに復旧・復興の施策として、早急に整備が必要な地域については公共団体が一時的にも用地を取得し、この信託手法をもって三位一体の「利益の循環」に向けて動き始めていただきたいものです。
楽観的であるかも知れませんが、小異を捨て、大同団結することから、新しい未来への道筋が生まれてくるのではないでしょうか。 以上、限られたスペースにおいて公共財産の有効活用を考えるつの手立てを考えてみました。立場によって考え方は相違するかも知れませんが、手を批いているだけでは何ら変化は起こりません。信託手法を用いて大規模な行財政改革に着手できるのかどうか、絶対的な根拠を持ち合わせているわけではありませんが、現状を打破する一助となれば幸いです。

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